なのに想い出は色あせないし、
年が積み重なるにつけ、ダブが旅立った日のことがより克明に思い出される。
文章がもっとうまかったら、
この思いもよらない感情をうまく伝えられるのに...。
きっといなくなってしまったことを
自分の中で受け止めることができたから、
心の奥に鍵をかけてしまって置いたものがでてきたのかもしれない。
だから、今更あの時のことを書いておきたくなった。
旅立った日
とうとう庭に出る元気もなく、大量の嘔吐をする。
辛そうな表情で、甘える声を出し見つめる。
本当は辛いのに引き止めている私のせいで
旅立つことを踏みとどまっていることが
その表情からわかった。
『もうがんばったからいいよ。お別れしよ。』
そして、別れの言葉をダブに伝えると...
静かに目を閉じ、眠るように息を引き取った。
それから、何分もしないうちに息子が帰ってきた。
玄関に入るなり、『ダブは大丈夫?』
『もう、ディーのところに行っちゃったんだ...』
別れが言えなかったと泣き崩れる息子を見て
私の悲しみは心の深いところに仕舞い込まれて行った。
私はちゃんと別れが言えた...
それはどんなにか幸せなことだったのかと
思わずにいられなかったから...。
悲しい気持ちは、未だにまるで鍵がカチッと開くように
こぼれ出して来る。
私はまたあわてて、別れの時の会話を思い出して、ふたをし、
鍵を閉めなおす。
でも、それもそろそろしなくていいかもしれない
と思える時間が過ぎている...。